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2章伊丹市における同和問題の現状と課題

本協議会においては、前項でみた取組みを踏まえ、伊丹市における部落差別の現状を把握し、同和行政のあり方を検討するため、1998(平成10)年に調査を実施した。

その方法は、従来からよく行われている調査票に基づくものではなく、主に聞き取りと行政資料、そして既存調査等の整理によった。このような調査方法と調査結果から得られた主な現状と課題の概要は、次の通りである。以下の記述の詳細については『部落差別の実態等を把握するための調査報告書』を参照していただきたい。

1.調査方法

調査では、主に聞き取りによる方法と行政資料を整理する方法を併用した。前者は、調査項目ごとに聞き取り担当者(本協議会委員)と当該項目に関係する行政職員が担当する方式、後者は調査担当者(本協議会委員)を中心にして、同じく関係行政職員によるグループワークの方式によって実施した。今回の調査では、前者の方法が主となっている。

聞き取りによる方法では、126人の調査対象者の生きざまをありのままに聞き取り、その内容を分析するとともに、一部においては、行政資料や既存調査等で跡づけた。調査票に基づく方法を採用しなかったのは、この方法では、情報が調査票から得られたものにほぼ限定されること、また従来の調査の主眼が「較差」を明らかにすることに置かれており、それを指摘したとしても、「較差」と差別との関係が明らかになったとはいえないと考えたからである。そして、この方法を採用することによって、数値情報の統計処理では表面化しない、社会構造に組み込まれた「部落」差別の実態を浮き彫りにしようとした。

行政資料を整理する方法(一部聞き取りも含む)では、行政内部には日常業務に絡む情報があり、それを整理することによって構造化された差別と同和対策事業の課題を浮き彫りにしようとしたものである。行政職員のグループワークを採用したのは、調査関連項目を組み合わせて、異なった部局に所属する複数の関係職員が関わることにより速やかな情報の収集を可能にし、職員自身が「部落」差別問題に主体的に取り組むことになると考えたためである。

2.調査結果等にみる主な現状と課題

さまざまな立場や位置にある人々の聞き取りでは、時として、涙ながらに差別の実態が語られ、また、ある時には、差別を受けたくやしさがぶつけられた。

そのような聞き取り内容を「要旨」としてまとめ、併せて、それらの分析結果を収録した調査報告書は、同和問題解決をめざす取組みへの貴重なメッセージとなっている。本項においては、そのような調査結果からみた現状の主なものを報告するとともに、その課題の一部をも提起することとする。

伊丹市においては、今後の人権教育・啓発をすすめるうえでの教材として、これらの内容を十分に活用することが望まれる。

1)教育・啓発

(1)社会啓発

「人権教育のための国連10年」に関する取組みがすすむなか、行政機関、企業・労働組合、伊丹市同和教育研究協議会(以下「伊同教」)等による社会啓発も、一つの転換点を迎えているが、今後は、これまでの取組みの中で積み上げられてきた成果と手法への評価を踏まえて、さらに市民が啓発活動への主体的参加を実感し、同和問題を自らの課題として重ね合わすことができる内容とするなど、工夫を凝らす必要がある。

ア. 行政機関では、啓発担当部署間における啓発事業参加者の評価や意見等の情報交換をも含めた総合的な連絡調整等を密にするとともに、啓発事業の企画・実施そのものにも市民の積極的な参加・参画を求めることなどが必要である。

イ. 伊同教にあっては、幅広い数多くの団体・個人で構成されているため、それぞれの立場からさまざまな意見を出し合え深まりのある交流ができるという利点があるが、他方では、構成団体の性格が多岐にわたることなどから十分な連携がとれず、活動が低迷している専門部会もみられる。したがって、このような問題点を早急に克服する必要がある。

ウ. 各企業における同和問題の理解度や認識度には明らかに濃淡があり、それらは、同和問題に対する取組み姿勢はもちろん、その他の人権問題への対応にも影響を及ぼしている。そのため、伊丹商工会議所や伊丹経営者協会等の地域経済団体や、労働組合の地域組織等との連携のもとに、加盟企業や労働組合において同和問題をはじめとした人権問題の研修が促進されるよう働きかける必要がある。

エ. 差別をなくす方向で市民が主体的に取り組むためには、既存の組織だけでなく、同和・人権問題に関する日常の生活や地域生活の課題をより具体化する方策とその緩やかな組織化が必要である。社会啓発とは、市民一人ひとりが自分の人権を護るという視点に立つよう求めることであり、また地域社会にそれをサポートする体制とネットワークするステーションが必要である。このような活動の拠点づくりと、これまでの社会啓発の活動や組織とどのように連動させ再構築させていくのかが、今後の課題である。

(2)同和教育

前節で述べた社会啓発における転換点に関しては、同和教育についても同様である。

ア.各小・中学校や幼稚園において同和教育が行われているが、対象地域から位置的に離れれば離れるほどその取組み姿勢が弱くなるなど、学校によって相当の温度差がみうけられる。日々、同和教育の実践が行われている学校もある一方で、学校行事の1つとして、年に数回程度しか実践されていない学校もみられる.また、同じ学校に勤務している教職員の間でも、1人ひとりに熱意の違いがみられる。こうした現実を踏まえて、すべての学校で、すべての教職員によって、同和・人権教育の取組みを充実したものにしていかなければならない。

イ.学校や幼稚園によってこのような温度差が生じている理由は、これまで対象地域に焦点をおいた同和教育を推進してきたことと無関係ではない。「部落」差別をなくすためには、対象地域と位置的に離れる学校・幼稚園ほど積極的な同和教育に取り組む必要がる。

ウ.現在では、男女共生教育の推奨など、学校教育に内在する差別や人権問題についての取り組みの必要性が求められている。また、学校や教職員のなかには、障害児教育や在日外国人に関わる問題に取り組み、又は積極的な活動を行っている教育現場があり人々がいる。これらの成果と課題をいかに共有し連携しあうか、そしてすべての学校・園で、すべての教職員にとって、同和問題をはじめとするさまざまな人権問題に関する知識や感性を育むことができる体制をつくることが必要である。そのためには、教材の開発が非常に重要である。

エ.学校教育が、これまでのような縦割りの形態ではなく、連関した、また地域社会に開かれたものとなるべきである。乳幼児教育、小・中学校教育における子どもが抱える課題を一連の教育課程のなかで取り組む体制、また同和・人権教育の一貫した取り組みの体制、そして家族、学校・園、地域社会が連動した取り組みの体制づくりなどが求められる。

2)差別の現状と課題

「部落」差別問題とは、社会意識に内在する「部落」像をシンボルとして、「部落」と「部落外」に人々を分別するカテゴリーが社会意識に確立しており、個人意識において、「部落」像を自明のものとし、それを自己に内包することによってどちらかの集団に所属しているという信念体系をもつことによって成立している差別的関係の問題である。言いかえれば、差別問題の焦点は社会意識に内在する差別意識にあり、この差別の基本型は、「障害児・者」差別、「在日外国人」差別、性差別などの差別問題においても同様である。

これまで「部落」差別問題は、「対象地域に居住する対象地域住民」(「同和地区に居住する同和関係者」)の問題として考える傾向があったが、そうではなく、社会意識に内在する差別意識の問題として捉え直す必要がある。このように考えると、「部落差別を受ける者(受けている者又はその可能性のある者)」は上記の人びとに限定されるものではない。それを決定するのは、「部落外にいると信じている者」のまなざしにある。調査では、「部落差別を受ける者」という概念によって、その課題を明らかにしようとした。

また、従来、差別問題は、「部落」差別と他のそれぞれの差別問題は、固有の差別問題として、行政的にも別々に扱われてきた。しかし、「部落差別を受ける者」においては、他の差別との重層化した差別のなかにおかれるだけではなく、複合的な差別を受ける者相互の間で対立というねじれ現象を引き起こすことなども起こっている。今回の調査では、これを「差別の重層性(複合的差別)」という概念を設定して課題を明らかにしようとした。

調査では、主に関係者から聞き取りという方法によって、このような「差別の現状と課題」を浮かび上がらせようとした。

ア. 婚姻、子ども、就職等、「被差別者」からの聞き取り全体を通して、また差別事件、差別事象等の分析を通して、「部落」差別の現状のきびしさが語られている。

イ. 婚姻差別や子どもの問題の場合、血統主義という家族規範をもとにして「部落」を見るという「世間の目」を内在した「部落外」住民のまなざしは、「部落」と「部落外」住民との婚姻を困難にしているだけでなく、「部落」と「部落外」住民との夫婦の間に生まれた子どもに対して、「部落外」住民の側に入らない、すなわち「部落」住民の側にいるものとして「見る」という「部落外」住民のまなざしによって、「部落」住民を再生産するという結果ともなっている。

ウ. 調査では、「部落外」住民の親が、子どもと「部落」住民との結婚を認める場合、「部落に住まない」、「籍を入れない」ことなどを条件としたという聞き取りが何件か報告されているが、これなども、親が「部落」住民との婚姻関係を社会的に知られないようにしている結果である。そのことによって、事実婚、非嫡出子の問題が、「部落」差別問題の重要な課題となっている。

エ. 女性の問題では、差別の重層性が、結婚や家庭生活において、また日常生活や社会参加の面において、主体的な生き方を阻害している場面がみられる。そのなかでも、家族・親族を形成している家族規範や、家父長的権威と内助の功という家族規範が、女性の結婚を困難にし、生活上の苦労や犠牲を当たり前とする考え方を日常生活に定着させており、これが同和地区の女性に多いと言われる離婚や母子世帯を生み出す要因ともなっている。その結果、他地域に比べて高齢女性の単親世帯が多いという現象を引き起こしている。

オ. 高齢者の問題では、対象地域においては、若い世代が、就職や結婚を機に地域外へ転出する傾向にあるが、そのあと家族・親族関係にねじれ現象が生じ、実家や対象地域に近寄らない、あるいは絶縁するなど、高齢者が、単身、あるいは夫婦世帯として孤立するという事態が生じている。そのようななか、共同会館やふれあい交流センターにおける交流事業は、高齢者の日常生活上の楽しみであり、生きがいとなっている。また、母子健康センターも、健康、医療面で大きな支えになるなど、地域内施設の高齢者世帯への関わり度は高い。また、介護の問題では、家族・親族、特に配偶者による在宅介護が中心となっており、介護施設についての要望もあった。

カ. 障害児・者世帯の問題については、障害児・者に対する差別と生活の困難さは深刻である。特に、妊娠、出産、育児、教育、養護と介護など、ジェンダー問題が絡み合っており、「女性」の課題としても重視していくことが必要である。また、分離教育と統合教育の問題も提起されている。現在、解放児童館を中心にすすめられつつあるが、障害児・者が当たり前に地域社会に住み、共に育ち合い、社会参加が可能な社会環境と、障害児・者世帯に対する支援体制の整備が求められている。

キ. 対象地域内に居住する「在日外国人」(調査では「韓国・朝鮮人」)の場合、「部落」と「世間」の「あいだ」、「韓国・朝鮮人」と「日本人」の「あいだ」というように、「部落」差別と「韓国・朝鮮人」差別の交差した位置におかれている。そして、「部落」住民と「韓国・朝鮮人」との間で対立するというねじれ現象が起こっている。現在では、継続的な経験交流の必要性が相互から出されており、これらを踏まえた共生可能な環境整備が求められる。特に、「韓国朝鮮人」の高齢者問題として、ことばを含めてアイデンティが護られる介護や支援体制の必要性が指摘されている。

ク. 対象地域に住むようになった「部落外」住民、対象地域外で住む又は職場がある「部落」住民の場合、それぞれの立場は異なるが、「世間」と「部落」との「あいだ」に置かれることによる心的内部の葛藤について語っている。「部落外」住民は、自明としてきた価値準則や見方から「部落」や「部落」住民を判断しようとする。また聞き取りでは、「部落」住民が「『そとの顔』と『むらの顔』の二重生活」と象徴的に表現しているケースもあり、差別の現実の前に、その拠り所とする位置が曖昧になっており、「世間」に埋没して生きようとして自己肯定と意志表明を抑制しようとする。両方のケースとも、差別の現実を回避しようとするか、そこに向かうかによって、その後の自己の位置づけや認識が異なるが、それを強いるのも社会意識に内在する差別意識の結果である。

ケ. 対象地域内で、特に低所得層に問題が起こってきている。この問題では、階層間の不平等と「部落」差別との結節点にこれらの層が置かれており、階層の固定化が生じていると考えられる。また、教育、就労の問題とも関連しており、部落解放労働事業団等への就労等の方法によって、一部は安定化の方向に向かっている層もみられるが、なお問題が残されている。

このような階層間の構造的不平等を前提にしたとき、被差別者とボーダーライン層との間で、「部落」差別を伴って対立が生じたことも報告されている。これらの問題は、今後の課題として重視される必要がある。

3)構造化された差別の現状と課題

調査では、「保育所園児の待機状況と、入所園児の住所と勤務地マップ」、「住環境整備の課題と、開発状況と地価の差」、そして「伝統的産業の現状と課題」から、「構造化された差別の現状と課題」を明らかにした。

ア. 対象地域では、同和対策事業の進展に伴い、道路、上下水道、公園、公営住宅といった都市基盤の整備や、老朽住宅の建替えと密集の解消がすすみ、住環境のハード面に関しては概ね整備されたところである。しかし、道路については、環境改善が地区改良法に基づくクリアランス型の手法ではなく、手直し型の緩やかな手法によったため、既に建っていた住宅を縫うような拡幅整備にならざるを得ず、整然としたまちにはなっていない。また、住宅についても、同和対策事業の利用による新築、建替え、補修や、市営住宅の建設などによって改善がすすんだが、新たに狭小敷地住宅が建設され建て込んだ形になってきている。

イ. 対象地域内とその隣接する地域において、「部落」差別の結果、土地の売買事例が少なく、「地価」が安いといわれてきた。調査では、公的評価について20年間の変化を検討すると、路線基準価格については周辺地域に近づいてきているが、公示価格は較差が見られる。それだけではなく、不動産業者の聞き取りで、現在でも市場価格が周辺地域よりも「1割から2割」低く、分譲住宅について問い合わせをした人々のなかで「歩留まり悪い」ということが表面化してきた。市場価格が低い理由について、不動産業者のなかで「売れない」という規範が一般化していること、またその規範の下に金融機関に貸し渋りがあることが指摘できる。

ウ. 対象地域内の保育所は、当初、同和保育所として出発したが、現在は混合保育を行っている。伊丹市内における全保育所の「入所志望順位」の分析では、対象地域内の保育所は、他の保育所よりも「第1志望」が低く、「第2志望」、「第3志望」が特に高くなっており、他の保育所と比較すると突出している。これは、保護者の保育所選択の動機に即して類推すると、対象地域内の保育所を選択しているのは、保育所に行かせる必要性を前提として、やむを得ず選択した保護者が多く存在するという結果である。そのため、「待機率」も低くなっている。

エ. 対象地域内の「伝統的産業」として、かつては「竹の皮づくり」、「靴の製造」、「縄・こもの生産」等の産業が存在し、一時期隆盛を誇ったこともあるが、現在では、「竹の皮づくり」でわずか2軒を残すだけとなっている。その原因は、(1)生産・流通過程の一部分しか担えなかったこと、(2)近代的な企業に不可欠な資本蓄積や情報集積ができなかったこと、(3)後継者の育成も含め労働力の吸収と組織化ができなかったことなどによって、自立的な発展への道が開けず、衰退の一途を辿ることになったためである。

オ. 上記のような構造化された差別の現状は、戦後日本の近代化と開発行政の理念のうらとおもての関係にある。同和対策事業もこの理念と無関係ではない。おもて面としては、国全体の近代化と開発がその単位として考えられ、そこでは、地域社会はほとんど考慮の対象とはならなかった。また、近代産業では、伝統的産業や技術の育成や農業等の有機的な産業・技術の育成についても、配慮されてこなかった。

現在では、このような理念が国外に向かって加速度的に展開されつつある反面、これまでの政策の反省も行われようとしている。そのため、地方自治体にとって重要な課題は、近代化(現在ではグローバル化)の波に押し流されるのではなく、それを見据えつつ、地域社会や伝統的な技術の潜在的能力をいかに育成するかという点にあり、そのためには、深層からの社会政策や地域政策が検討され方向づけられる必要がある。

4)対象地域内施設の取組み

共同会館、解放児童館、ひかり保育園、母子健康センターなどの地域内施設は、対象地域の住民が、教育、仕事、生活環境の悪化、罹病など、人権が阻害された状況を取り戻すということだけではなく、被差別という社会的立場と、差別をなくす社会の実現に向けた取組みを行うという自覚を醸成する場として、その活動を重ねてきた。

現在においては、そのような取組みとともに、共同会館やふれあい交流センターの各種交流事業、解放児童館の学習交流グループ、ひかり保育園の混合保育など、乳幼児から子ども、成人、高齢者を対象にして、周辺地域住民に対する幅広い社会啓発に取り組んでいる。

ア. そのような交流事業参加者においては、徐々にではあるが、対象地域に対する偏見が改善されつつあり、なかには、差別意識の自覚と同和問題についての理解と認識をもつ人々が現れている。その一方、交流事業には参加するが、同和問題には触れたくないと思っている参加者もある。また、交流事業に参加するために対象地域内の施設を訪れるだけでも、差別的なまなざしで見られるというなかで、参加者が固定してきているなどという問題もある。

イ. 地域内施設の活動には、今後の取り組みを検討するうえで、重要な2つの蓄積がある。それらは、社会的差別の結果、対象地域には多様な差別を受けている人々が暮らしており、社会的コミュニティを形成・維持しながら、社会活動のネットワークを作り上げ、既存の公共施設がこれを支えてきたということ、また、学校、社会啓発等の関係機関や公共施設の取り組みにおいて、人と人との関係、人間のあり方、社会のあり方、諸差別の関係、地域の伝統を受け継ぐなどについての実践活動の蓄積ができつつあるということである。これら2つの蓄積は、今後伊丹市が、同和・人権行政(人権教育・啓発を含む)を市域全体にまたがって展開するための基礎を形成しているといえる。そのためには、関係機関や施設の関係をより有意味的、有機的なものにし、教育・啓発の内容を精査し、全市的な活動へと展開するための方策を検討することが求められる。

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