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2章個人施策の当面のあり方と方向

これまで個人施策は、個人を対象とする個別対策を意味していると考えられてきたが、生活の全領域にわたって、(1)総合的な対策すなわち、地区そのものを一つの固まりとして考える施策と、(2)個を個として見る施策が含まれるのである。

さらに個人施策は個人を対象に行われ、その個人が一人の人格として独自な判断ができる能力を目標において個人の自立を前提に施策されている。自立した個人が実現された場合には当然一般行政に移されるべきものと考えられている。

しかし、自立は自立を可能にする社会的な環境が確保された場合に、はじめて可能となる。視点の項でも述べたように、部落差別はあらゆる社会現象に浸透しており、差別を受ける側にとって社会生活を営む上において、(1)経済的要求、(2)社会的要求および(3)個人の実現・充実の要求の閉そく状況として現れてきており、そのため、自立への道は阻害されているといえる。

したがって、自立を目標とする個人施策は、個々の個人給付的施策のみによって、その目標が達成されるのではなく、同和対策事業の総合性を確保することによって、はじめて達成されるものである。

自立と関連の深い労働問題は、地区内とか行政の範囲内に限定すべきものではなく、企業の需要調査等の方法によって、新しい雇用を創出する必要がある。また、高齢者問題は介護や生きがい対策という福祉行政の範囲にとらわれず、高齢者の仕事の創出を含む社会参加のあり方と活動の場の提供についての検討が必要である。

いずれにしても、個人施策は、生活向上に関する諸施策と関連を持たせることが重要であり、施策の推進に当たっては、同和問題を解決するという視点を外してはならない。そして、真に自立を促す方向か否かを常に点検し、特に、生活の内面的充実をはかる方策の確立を次のとおり講じられたい。

(1)職業の安定

(ア)青少年の就職指導

就職を希望する生徒・学生に会社紹介の映画など、具体的な情報を通して職業(仕事)の内容や産業について指導するなど、学校における職業教育ならびに職業指導などの進路指導を充実するとともに、その就職実態を把握し就職後の指導についても充実をはかる。

(イ)中高年齢者の就労の促進

地区における中高年齢者の就労問題について、伊丹公共職業安定書と連携を密にして、その対策を検討するとともに、伊丹公共職業安定所に設置する職業相談員の活動を促進し、中高年齢者の雇用の促進をはかる。

中高年齢者に真に適切な雇用とは何かを明らかにし、それに即した施策を進めることが必要である。

(ウ)部落解放労働事業団育成

部落解放労働事業団に関しては、経済の安定という観点から「労働」の市場価値の側面だけではなく、家族や地域の安定、さらには社会的非行の防止といった社会的効果の面で果たしてきた役割をも評価し、総合的な観点から点検して活性化をはかることが必要である。自立への具体的方策の確立と、その計画的な実施の指導は、この点を考慮する必要がある。

そのためには、就労者の年齢を考慮した業務内容、就労時間、賃金などに関することや市内民間企業、公共施設が必要とする業務内容等をもう一度点検し、雇用創出への指導・助言・援助を行うことが必要である。

(エ)企業の育成と点検

経営相談、需要創出、技術指導、融資斡旋等諸制度の活用とともに、有効に活用されているか否かについての実態把握に努める。

(2)福祉の向上

(ア)健康管理の促進と検討

健康診断、訪問指導、来所相談など、母子健康センターの日常活動ならびに関係機関の医学的検査に基づき、対象地域住民の疾病構造を把握し、その予防・指導などの保健活動への参加促進をはかる。また、眼科診療については、患者の実状に即して検討することが必要である。

(イ)高齢者対策の刷新

高齢者の人口比率は、市の平均より高い率を示し今後も増加が見込まれる。このことは、若年労働力の流出と無関係ではなく、「部落差別」の存在を逆に立証しているともいえる。介護を要する高齢者の実態を把握し、相談指導、ホームヘルパーの派遣などその対策を確立するとともに、健康な高齢者の生きがいを実現できる活動の場(具体的な施設の建設・運営を中心として)を提供できるよう早急に検討することが必要である。

(ウ)心身障害者(児)対策の検討

心身障害者(児)の在住率はかなり高率を示している。障害者は単独生活者としての要求を持ち、それを支援するという視点が中心となる現状に鑑み、速やかに、その生活実態を把握し、社会的協同の一員として雇用・教育・生活の全般にわたって適切な対策を検討する必要がある。

(エ)就学前教育の充実

保育園の保育内容を充実するため、思い切った保育方法の創出を検討されるべきである。乳幼児に思い切った「社会性」と「自立性」の修得の方法を導入することは緊急の要と考えられ、地区外児童・幼稚園児との交流の機会をより拡大することや、周辺地区の乳幼児の受入れができる条件整備は、これらの施策の一環として部落差別の認識と同和保育の意義の徹底をはかることによって進められるべきである。また、夜間保育のあり方については自主運営への具体的方法を示すことが必要である。

(オ)交流活動の積極化

文化的に創造的な活動を施設を活用して行うことによって、交流の端緒はひらかれるものと考えられる。これらの活動は、人権教育への途をひらくものとして、人権啓発の視点から積極的に取り上げられるべきである。

(3)個人給付的事業

現行諸制度は、減免制度、助成制度、貸与・貸付制度、融資斡旋利子補給制度等多岐にわたっており、それぞれ所得制限、返済能力等一定の条件設定が行われている。

これらの施策は、それぞれ独立したものとして取り扱われる傾向があったがすべて「自立」を目標とする同和問題解決の手法として相互に密接な関係を持っている。したがって、同和行政推進委員会において同和対策事業を受ける立場を中心にして総合的に検討されることが望ましい。

この委員会で論議するに際し、まず基本的には、昭和58年8月の答申を骨子として適正化をはかることが必要であるが、特に次の事項について相互の関係を勘案し、1の、(2)で述べている部落差別の解決にとっての有効性の視点から、その基準を明確にするために検討を進め、その方策を確立すべきである。

(ア)負担能力に応じた減免制度のあり方

(イ)所得制限についての制度相互間の調整

(ウ)所得制限のある貸与・貸付制度の返還規定のあり方

(エ)法期限後において継続を必要とする事業のあり方

 

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