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令和5年度慶應義塾大学病院・国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院

1.視察出張委員

  委員長    保田   憲司       副委員長     森 華奈子

  委   員     加藤   光博       委       員     大津留 求

     〃        川井田清香            〃           加柴 扶美

     〃        松浦    晴美            〃           鈴木 隆広

2.視 察 先   慶應義塾大学病院・国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院

3.実 施 日   令和5年11月15日(水曜日)~16日(木曜日)

4.調査事項  下記報告のとおり


◎11月15日(水曜日) 14:00~ 慶應義塾大学病院

<AIホスピタル事業について>

   初めに、慶應義塾大学病院副病院長兼医学部教授(放射線科学)兼AIホスピタル事業副研究責任者より歓迎のあいさつを受けた後、保田委員長よりお礼のあいさつがなされた。
   続いて、慶應義塾大学病院副病院長兼医学部教授(放射線科学)兼AIホスピタル事業副研究責任者より事業説明がなされた後、担当職員同行のもとコマンドセンター(リアルタイム病床管理システム)、ピッキングマシーン(全自動PTPシート排出装置)、Relay(自走式医薬品配送ロボット)、Navita(病院インフォメーションシステム)、Digital signage、WHILL(自動運転クルマ椅子)、立位CTを見学した後、質疑応答がなされた。
   最後に、森副委員長よりお礼のあいさつがなされた。

<説明の概要>
   2018年10月に内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」に採択され、IT化・AI化を推進している。近年急速に進歩してきたさまざまなICT、AI技術を病院内に実装・統合し、実現可能なAIホスピタルモデルを構築している。その結果、患者に安心・安全で高度な先進技術を提供しながら、医療従事者の負担を軽減することを目指している。以下が、具体的なプロジェクトとなっている。

(1)コマンドセンター(リアルタイム病床管理システム)
   電子カルテや検査システムなどの院内データを一元的に分析・可視化できる入退院・病床管理システムである。

(2)ピッキングマシーン(全自動PTPシート排出装置)
   慶應義塾大学病院では、2ユニット(1ユニット130種の錠剤を搭載)を連結させ、現在は、約200種弱の錠剤を搭載している。処方の対象としては、入院臨時処方及び退院処方全部としている。休診日も含めて、終日稼働しており、対象処方での稼働状況は60%弱である。
   人員面における導入効果としては、これまでピッキング作業を行っていた薬剤師を他の業務へシフティングすることが可能となった。
   安全面における導入効果としては、錠数の間違いや錠剤の取り間違いといったエラーの発生率が従来の手作業と比較し、抑制された。

(3)Relay(自走式医薬品配送ロボット)
   慶應義塾大学病院では、令和2年より医薬品搬送に使用している。ロボットに内蔵したセンサーやカメラで歩行者や障害物を検知・回避して自律走行する。目的地を指定するだけで、事前に記憶させた院内マップから最適なルートを自動生成し、院内各所に医薬品の搬送を可能とする。また、薬剤部から各部署への搬送にかかる所要時間は、10~15分である。

(4)Navita(病院インフォメーションシステム)、Digital signage
1 Navita(病院インフォメーションシステム)
   趣旨に賛同し連携協定を締結している医療機関がスポンサーとなり、Navita(病院インフォメーションシステム)が広告媒体となっている。
   スポンサーである医療機関(以下「スポンサー」という。)の広告が流れたり、アイコンをタッチすることでユーザーが見たい情報を閲覧できる「タッチパネル式広告媒体」をはじめ、慶應義塾大学病院を中心とし、スポンサーがマッピングされた「周辺地図」や、慶應義塾大学病院からのお知らせや様々な癒しのコンテンツを放映している「縦型サイネージ」のほか、「院内マップ」で構成されている。
   同じものが院内に3台設置されており、同様にメディカルモールの柱にも10枚のモニターを設置して、広告やコンテンツを放映している。

2 Digital signage
   正面玄関にある12枚のDigital signageには、法律や省令などで掲示が義務づけられている内容が掲載されている。
これまでは、カッティングシートの活用で、掲示内容に変更が生じるたびに多額の費用と時間を要していたが、導入によりファイルの差し替えがワンクリック、数分で済むようになった。

(5)WHILL(自動運転クルマ椅子)
   自動運転、自動停止、自動返却機能を備えている。ルート設定については、乗車場所は1機体につき1か所、降車場所は決められたルートから選択可能である。
   操作パネルについては、簡単・シンプルな画面で、初めて利用する方でも問題なく操作できる。2023年4月現在、日本語・英語・中国語・韓国語・タイ語・ベトナム語・オランダ語・フランス語の多言語対応となっている。

(6)立位CT
   癌や動脈硬化などの限局した部位に病変がある病態である器質的疾患を確認する従来の臥位CTと比較し、整形疾患等の機能性疾患の診断や、フレイル、筋肉量の変化骨盤庭筋の弛緩、嚥下機能、排尿機能、歩行機能等、様々な人体機能の評価が可能である。立位CTで確認できる疾患や機能低下の早期発見は、健康寿命の延伸に非常に重要であり、高齢化社会において、健康長寿を維持することに役立つと考えている。非接触で撮影が可能であり、車椅子等に座った状態でも可能である。

<質疑応答>
(問)コマンドセンター、ピッキングマシーンの導入費用は。
(答)現状の機能を削除・追加することで価格は変動することから、どのような機能を導入するかによって、初期費用は変動する。

(問)コマンドセンターの導入によるメリットは。また、病床は診療科によって分かれているのか。
(答)導入により、緊急入院の際に病床の空きを探す時間が短縮された。病床につい
ては、全ての診療科共同となっている。

(問)薬剤師の配置人数は。
(答)各病棟にも配置しており、相当数となる。

(問)WHILL(自動運転クルマ椅子)の設置台数と使用料は。
(答)現在は6台設置しており、月額利用料として費用を支払っている。

(問)立位CTの設置費用の概算と費用対効果はあったのか。
(答)従来の臥位CTと比較し、約1.5倍の設置費用を要するが、検査時間が短縮され、より多くの検査を可能としている。

(問)本市で統合新病院建設を進めていくにあたり、今、取り組むべき、早めに検討
したほうが望ましいものはあるか。
(答)Relay(自走式医薬品配送ロボット)を導入するのであれば、建物の屋内動線を作ることや、ピッキングマシーンを導入するのであれば、台数に応じた設置面積の確保や通信系統を一括管理する仕組を構築する必要がある。現在、効果検証の段階にあり、どういったものが有効であったかを回答することが難しい。

(問)患者へのインフォームドコンセント(以下「IC」という。)やクリティカルパスは書面、電子のいずれで行っているのか。
(答)現在は、試行的に電子で実施している。

(問)これまでの事業の発案は、どのように行ってきたのか。
(答)企業より提供されたものを精査した上で、関連部門に情報提供し、事業実現に至ったケースや、部門ごとに課題を挙げてもらった中で、課題を解決出来そうな企業の事業を探し、事業実現に至ったケースがある。

(問)医師の働き方改革に向け、タスクシフトや医療従事者の勤退管理に関して、今後実現していきたい取組はあるのか。
(答)タスクシフトは、国の方針に基づいて進めている段階である。医療従事者の勤退管理については、勤務間インターバルを管理することが可能な仕組を作っている段階である。

(問)AIホスピタル事業を進めていく上で、病院における経営人材の育成の観点で実施してきたことはあるか。また、今後は多くの病院で、医師が経営の視点を持つことが必要になると思われるか。
(答)慶應義塾大学病院では、医師を対象に経営手法に関する講師を招き勉強会を実施し、病院経営に携わってもらうことで、医師に経営に対する意識を高めてもらうようにしている。今後、経営の視点を持つ医師を増やしていくべきであると考える。

(問)問診の自動音声口述筆記の使用状況は。
(答)現状では、経常的に使用する段階には至っていない。
 

◎11月16日(木曜日) 10:00~ 国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院

<AIホスピタル事業について>

   初めに、国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院救命救急センター長兼AIホスピタルチームリーダーより歓迎のあいさつを受けた後、保田委員長よりお礼のあいさつがなされた。その後、副委員長、各委員の順にあいさつがなされ、国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院の関係者のあいさつがなされた。
   続いて、国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院救命救急センター長兼AIホスピタルチームリーダーより事業説明がなされた後、担当職員同行のもと、音声入力できる電子カルテ、持参薬鑑別、タブレットによる入院時IC、救急科における構造化できるカルテを見学した後、質疑応答がなされた。
   最後に、森副委員長よりお礼のあいさつがなされたのち、国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院長堀病院長よりあいさつを受け、再度、保田委員長よりお礼のあいさつがなされた。

<説明の概要>
   公募で採択された内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」の取組に引き続き、BRIDGE(SIPや各省庁の研究開発等の施策で開発された革新技術等を社会課題解決や新事業創出に橋渡しするための取組をいう。)に採択され、病院のIT化・AI化を推進している。以下が、具体的なプロジェクトとなっている。

(1)音声入力できる電子カルテ
   外科回診で看護師が使用している。従来は、処置準備を手伝いつつ、医師の処置内容を急いでメモ書きしていたが、音声入力できる電子カルテの導入により、1日約50分の時間削減につながるとともに、タイムリーな情報共有が可能となった。また、他の活用事例として、ナース検温、外科系回診、手術記録のほか、チームカンファレンスでも活用されている。2023年度の取組として、タブレット、スマートフォン等のデバイスの検討や、オンライン会議といった「看護部門以外の多種職へのシステム展開」、指示の要請・確認、多職種一括情報共有といったコミュニケーション機能を充実させるための「ボイスコマンド機能の実装」、病院の診察・検査結果、定期健康診断の結果、処方箋、バイタルデータ等を一元的に集約するPHRシステムへ連携させるといった「PHRシステム連携の実装」を到達目標としている。

(2)持参薬鑑別
   新入院患者から受けた持参薬について、従来は、患者からヒアリングを行い1人あたり平均約25分、最長で3時間を要していたが、システム導入後は、大幅な時間短縮につながった。現在、430種類の薬剤鑑別に成功しており、タブレットのみでなく、スマートフォンでも使用可能である。今後は、内服薬剤2,500品目に対する認識精度95%、医療AIプラットホームへのシステム提供を到達目標としている。

(3)タブレットによる入院時IC、ドクターアバター
   1 タブレットによる入院時IC
   入院説明に使用するものとして、計3台を設置しており、初回の入院対応患者への使用率は、約95%となっている。導入前では、平均6分を要していたが、導入後は、3分に短縮した。入院対応平均患者数が1日あたり約50名であるため、計2時間30分の時間削減につながった。
また、冠動脈造影・経皮的冠動脈の形成術を行う際の説明に使用するものとして、計5台を設置している。初回の入院対応患者への使用率は、約98%となっている。導入前では、看護師の対応する平均時間が1件あたり18分を要していたが、導入後は1件あたり12分に短縮した。入院対応患者数が1ヵ月あたり約100件であるため、計10時間の時間削減につながった。
   2 ドクターアバター
   手術前の麻酔科受診前に使用している。内容としては、全身麻酔や脊髄麻酔用のものを作成しており、麻酔に関する説明を動画で作成し、理解を深められるようにしている。導入により、1件あたり5分程度の時間削減が期待できる。

(4)救急科における構造化できるカルテ
   従来では、救急隊レポートを医師、その後に看護師、事務員の順に連絡メモを介して情報共有しており、非常に効率が悪かったものを、急患室モニター・事務パソコン画面にて情報共有し、初療室で医師が受話し、直接入力(入力時間として1患者あたり約2分の時間削減)することで、看護師、事務員との共有が可能となっている。今後は、音声による入力をすることで、救急隊との連携の強化や電子カルテとの連携を到達目標としている。

<質疑応答>
(問)音声入力できる電子カルテで使用するデバイスの取扱いはどのようなものか。
(答)現在は私的デバイスではなく、院内でのデバイスとなっている。

(問)音声入力できる電子カルテについて、新規採用された医療従事者が現場で使用できるようになるまで、どのくらいの期間を要するのか。
(答)新規採用された医療従事者ほど覚えが早く、新規採用者から新しい機能を学ぶこともある。また、働き方がスマートであることも魅力的な要素となっている。

(問)音声入力できる電子カルテのエンジンが搭載されている場所はどこか。
(答)解析サーバーは、院内のサーバー室に設置しているが、リアルタイムで変換する必要があることから、各タブレットやスマートフォンに搭載している。

(問)音声入力できる電子カルテにおいて、看護師へ配付しているデバイスはどのようなものか。
(答)タブレットとマイクをペアリングした状態で配付しているが、数量が限られているため、現状では1人1台の配付には至っていない。スマートフォンについては、搭載されているスピーカーを使用しているため、スマートフォンのみの配付であり、マイクは配付していない。

(問)音声入力できる電子カルテの導入後の効果は。
(答)現状では、実際に記録時間が相対的に短くなったというデータはない。導入後
の課題として、文字化するまでの操作に時間がかかるため、システム改良等の必要はあるが、病院全体で事業に取り組んでいるという姿勢から、現場においては、モチベーションの向上に繋がっている。

(問)持参薬鑑別において、お薬手帳との連動は可能か。
(答)現在、お薬手帳との連動を進めている。

(問)持参薬鑑別のデータのサーバーは院内に設置しているのか。また、データの所有権はどこに帰属しているのか。
(答)院内に設置している。また、データの所有権は病院側に帰属しているが、システム会社とは共同してシステムを開発していくという条件でデータを提供している。

(問)現状では、入院時ICはほとんどの方がタブレットを使用しているのか。
(答)そのとおりである。特に高齢の方は自分のペースやご家族とご覧頂くことが可能となっている。

(問)入院時ICの内容は院外で公開しているのか。
(答)現在は、院内での使用に留まっている。

(問)デジタル化を進めていくにあたってのプロセスはどのようなものであったのか。
(答)病院長からのトップダウンの指示のもと、デジタル化を進めてきた。これまで職員全員に集まってもらい、どのような事業が必要なのかの協議結果や現場の医療従事者が何を求めているのかを聞き取り、事業の実現化を進めてきた。今後は、院内で事業の進捗状況を共有していくことが課題であると考えている。

(問)事業全体の初期投資、運用における費用はどのように拠出しているのか。また、現在投資したものについては、費用対効果があったといえるか。
(答)初期投資の費用は、内閣府からの補助金により拠出している。また、費用全体では医療収入の約0.1%であり、実際の運用において、費用対効果もみられる。今後も、職員の大幅な負担の軽減になるのであれば、他の先進的な取組や必要な投資について、費用対効果を検討しながら導入していこうと考えている。

                                                                                                                                                           以 上

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