令和6年第1回市議会定例会(令和6年2月21日)にて、木下教育長から令和6年度教育基本方針を表明しました。内容は以下のとおりです。
令和6年度教育基本方針 (PDFファイル: 499.8KB)
令和6年度教育基本方針 概要版 (PDFファイル: 1.8MB)
令和6年1月1日、能登半島地震が発生し、多くの建物が倒壊し、火災に見舞われました。海岸沿いでは津波に家が流され、道路に亀裂が入るなど甚大な被害が出ました。そして、多くの人の命が奪われ、長期にわたり避難生活を余儀なくされている人もいます。改めて、亡くなられた方にお悔やみを申し上げるとともに、避難生活を送られている方々に心からお見舞い申しあげます。折しも、今年は、阪神淡路大震災から30年目を迎えますが、日ごろから自然災害に関心と正しい知識を持ち、物と心の備えの大切さと、発生時の対応を身につけておくことの必要性を痛感しております。
それでは、市長の市政運営の基本方針及び令和6年度予算案の諸事業に関する所信に基づき私から令和6年度の伊丹市教育基本方針について、重点施策を中心にその考えを申し述べます。
1つめは、「主体性、問いを立てる力、コミュニケーション能力」の育成です。AIがさらに私たちの身の回りに広がる社会においては、既存の問いに正解を出すことより、新たな問いを立てることが大事だと言われています。AIが普及すればするほど、AIが簡単に答えられる正解の価値は下がります。AIが簡単に答えられない「問い」こそが、社会を動かし新たな価値を生むのです。しかし、乳幼児期の教育においても、小中学校、高等学校の教育においても、主体的に学べない、問いを立てる力が弱い、対話的な学びが深まらないといった課題が明らかになっています。
このようなことを踏まえ、学校園においては、一斉指導による正解主義から脱却し、教師が裏に正解を持ちながら子どもたちがそれを言い当てていくような指導ではなく、自分にとって必要な学びを自分の力で進めていくことのできる資質を育むために、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を推進してまいります。また、家庭においては、タブレット端末やデジタル教材を有効に活用するなど「計画的に学習に取り組む習慣づくり」に取り組んでまいります。
2つめは、「教育DXの推進」です。生成AIが社会を変えようとしています。今後5年から20年以内にAIが人間の能力を超える確率は約50%と言われています。また、これまで難しいと言われた「感情を持つ可能性」についても、共感力を養う訓練をすれば、AIも共感を示すことができるようになると言われています。このように、AIの進化はめざましいものがあり、昨日の常識は今日の非常識になる時代です。このような時代に対応していくためには、ICTを有効に活用できる力が不可欠です。
子どもたちは現在、令和2年度に整備されたタブレット端末を学習のためのツールとして文房具のように日常的に活用しています。また、授業支援システムやデジタル教材、デジタル教科書、MEXCBTなど多様なコンテンツを活用しています。これらは「個別最適な学び」や「協働的な学び」を充実させるために欠かせないものですが、ログインの煩雑さ等の課題が明らかとなっています。もう1つ大きな課題が、「教員の働き方改革」です。
このようなことを踏まえ、令和6年度は、令和5年度に策定した『伊丹市教育DX推進指針』に則り、幼児教育においては、登降園管理や午睡チェック、保護者連絡などを一元化した「次期保育システム」の運用を図ってまいります。学校教育においては、シングルサインオンを可能とする「学習eポータル」の整備や、すべての子どもにとって読書が身近なものとなる電子書籍の導入を図ってまいります。
3つめは、「子どもの最善の利益」を視野に入れた教育の推進です。近年、社会の変化などにより、全国的に子どもの虐待やうつ症状、不登校、自殺、SNSによるトラブルなどが増えています。国の宝である子どもたちが、将来にわたって豊かで幸せな人生を送るためには、子どもを一人の人格を持った人間として尊重し、伸び伸びと自己実現を図ることができる「居場所」を確保することと、子どもに関する施策に子どもの意見を反映していく必要があります。
子どもの居場所としては、学校や家庭、図書館や公園などの施設が考えられますが、学校においては、授業や学校行事などの教育活動中は言うまでもなく、放課後や長期休業中においても、「子どもの居場所」づくりに取り組んでまいります。家庭においては、教育委員会が発行している『みんなで学ぼう!子どもの権利条約』を活用するなど、子どもが有する権利などの周知を図ってまいります。
また、子どもの意見反映については、「こども基本法」に則り、子どもの自発的かつ主体的な成長を促す視点に立ち、学校行事や不登校・いじめへの対応、校則の見直し等に活かしてまいります。
さまざまな教育施策の推進にあたっては、前年踏襲でなく、社会の変化や子どもの変化を視野に、常に「物事の本質」に立ち返り実施してまいります。また、全ての教育活動において、「良くても悪くても現状から目をそらさないこと」「乳幼児期から高等学校までの縦の連携と、学校・家庭・地域などの横の連携を大切にすること」「教育情報を積極的に発信すること」を基本方針に本市の教育を推進してまいります。
ここまで、重点施策について申し上げましたが、引き続き、「第3次伊丹市教育振興基本計画」の体系に沿って、各分野における主な取組をご説明申し上げます。
続いて、「主要施策2 学校教育」であります。
「確かな学力」の育成については、社会のあり方や学校課題が多様化・複雑化している中、学校・家庭・地域が協力し、子どもたちの幸せのために、三者がそれぞれの役割を果たすことが不可欠です。
さらなる学力の向上を目指し教科の楽しさが伝わる体験や、実感を伴う授業の充実、子どもが学びの主体となる「主体的・対話的で深い学び」を実践してまいります。誰一人取り残さないために、ICTの活用による習熟に応じた学習や、個別最適な学びの充実を図ってまいります。また、小学校高学年における教科担任制の一層の充実を図ってまいります。
新しい時代に対応した教育の推進については、学習の基盤となる情報活用能力の育成とICTの活用による主体的・対話的で深い学びの実現のために、教員のICT活用力の向上に取り組んでまいります。また、ICTを活用した効果的な学びの支援や、安全・安心なICT環境の実現等に向け、学習コンテンツのハブ機能やシングルサインオン機能を有する「学習eポータル」の導入など、子どもや教員の声を踏まえた教育DXを着実に進めてまいります。
「豊かな心」の育成については、『生徒指導提要』の趣旨を踏まえ、子ども自身が本来持っている力に気づき、引き出せる教育活動の実現を図ってまいります。
いじめの対応においては、いじめと重大事態を防止するために、未然防止、早期発見、早期対応の充実に努めてまいります。また、『伊丹市いじめ防止等のための基本的な方針』の改訂にあたっては、子どもたちの意見を取り入れ、より実効性のある施策を推進してまいります。
不登校児童生徒の対応においては、不登校の出現率は全国平均を下回っているものの増加傾向にあり、取り組まなければならない最重要課題の1つです。その背景には、『教育機会確保法(平成28年)』の成立を受け、文部科学省が「学校への登校を前提」としていた方針から「社会的自立を目指す」方針に転換したことや、コロナによる休校や学級閉鎖などにより、学校を休むことへの抵抗感が低下したこと等が考えられます。そのようなことを踏まえ、学校がより安全・安心な居場所となるために、魅力ある学校づくりやわかる授業の創造に取り組むとともに、小中学校に不登校対策支援員を配置し、校内教育支援センター(別室)の充実を図ってまいります。また、オンラインの活用や、民間施設との連携等を図ってまいります。教育支援センター「やまびこ」においては、不登校児童生徒の社会的自立を実現するために、カリキュラムの充実を図るとともに、ICTの活用や学校を含む関係機関との連携を強化してまいります。
「健やかな体」の育成については、子どもたちが体力の向上を図り、生涯にわたって健康な生活を送るために、各校の実態に応じた体育授業の改善や休み時間の活用、家庭との連携による「運動の日常化」等に取り組んでまいります。
部活動の地域移行においては、これまでの学校部活動が担ってきた教育的意義は、競技力や技術力の向上のみならず、学校生活に潤いを与え、人間性の育成や非行防止、社会人としての基礎づくりなど極めて大きいものがあります。しかし、少子化の進展と教員の労働環境の改善が喫緊の課題となっており、この課題を将来に先送りすることはできません。子どもたちが生涯にわたってスポーツや文化芸術活動に親しむことができる機会を確保し、教員の業務負担を軽減するために、迅速かつ計画的に部活動の地域移行を進めてまいります。将来の目指すべき地域クラブ活動の方向性を学校・地域と共有し、丁寧な保護者説明を進めていくことで、誰もが無理せずに維持できる地域クラブ活動を整備してまいります。
市立伊丹高等学校の魅力向上については、主体的に行動し課題解決に挑む人材や、地域社会や国際社会に貢献する人材を育成するために、兵庫県の『県立高等学校教育改革第三次実施計画』に準じて、普通科の改革に取り組み、探究活動を充実してまいります。
特別支援教育の推進については、障がいのある子どもの自立と社会参加を目指し、一人ひとりの教育的ニーズに的確に応える指導を提供できるよう、多様で柔軟な仕組みを整備してまいります。
教職員の資質向上については、不登校児童生徒や配慮を要する児童生徒の増加など「子どもの多様化」と、AIの急速な進展などの「社会の変化」に対応できる資質の育成が喫緊の課題となっています。これらの課題を踏まえ、自らの強みを伸ばす「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実践し、教師に共通して求められる資質能力に加え、新たな領域の専門性を身につけるなど、子ども一人ひとりの学びを引き出し、支援する「伴走者」としての資質を高めてまいります。併せて、異校種間の「縦の接続」を踏まえた研修の実施及び、各校における研究の活性化を図ってまいります。
続いて、「主要施策3 教育環境の整備・充実」であります。
コミュニティ・スクールの充実については、各学校の教育目標を達成するために、教職員と学校運営協議会委員が協働する意義を共に感じられるよう、より実態に即した研修会や情報交換会等を実施してまいります。また、学校運営協議会と地域学校協働活動の一体的な推進に取り組んでまいります。
学校体育館への空調設備の導入については、国連のグテーレス事務総長が「地球は沸騰化時代に入った」と、最大限の表現で危機感をあらわにしました。このような昨年夏の記録的な暑さを踏まえ、一刻も早く、夏の体育館での教育活動における熱中症を予防するために、空調設備を2か年で小中学校及び高等学校、全26校に設置してまいります。
老朽化が進む学校園施設の維持保全については、大規模改造工事や空調改修工事等の整備のほか、不審者の学校侵入防止対策のさらなる強化に取り組んでまいります。そのほか、グリーン社会の実現に向け、学校園舎へ高効率な空調やLED照明などを導入するとともに、さらなる再生可能エネルギーの利用促進を目指し、太陽光発電設備の設置に取り組んでまいります。
教職員の働き方改革については、長時間勤務による教員の疲弊や教員不足などが大きな社会問題となっており、より一層の推進が求められています。教職員が、心身の健康を保持し、情熱とやりがいを持って働くことができるよう、また、教職の魅力を高めるために、『学校における働き方改革基本方針』に基づき、部活動の地域移行や教育DXによる業務改善など、勤務時間の適正化に取り組んでまいります。
続いて「主要施策2 青少年の健全育成」であります。
子どもの居場所づくりの推進については、子どもたちが安全・安心に過ごせる「居場所」を提供するために、児童館「こらくる」やスワンホール内の青少年センター等において、遊びや学びの場とともに様々な体験の機会づくりに取り組んでまいります。
児童くらぶにおいては、子育て世代の女性の就業率上昇等により、年々入所希望者が増加する中、子どもたちに遊びの場や生活の場を提供し、健全な育成を図るために、適切な保育環境の整備が不可欠です。昨今の利用希望者の増加に対応するために、稲野児童くらぶの支援室を1室増やし、4支援室での運営が出来るように改修工事を実施してまいります。併せて、多様な保護者ニーズにも対応できるよう民間事業者が設置・運営する児童くらぶの参入を進めてまいります。加えて、全ての児童くらぶに設置されている経年劣化の激しい本やおもちゃの買い替えを行ってまいります。保護者の負担軽減を図るために、引き続き夏休み期間中の昼食提供事業の実施に取り組んでまいります。
子どもの見守りネットワーク整備については、青少年の非行や問題行動の未然防止と安全確保のために、補導活動等の情報を学校等関係団体と共有し社会総がかりで見守り活動に取り組んでまいります。また、悩みを相談につなげ、早期解決を図るために、学校や他の相談機関等と連携するとともに、アウトリーチ型相談支援を更に推進してまいります。
教育委員会事務局教育総務部教育政策課
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