とまらないかっぱえびせん鴨の寄る(長谷川博)
ミコアイサ・キンクロハジロみんな鴨(屋部きよみ)
スキップは出来ないけれど鴨に会う(平きみえ)
日曜日晴れ鴨を見に来ませんか(小松房子)
給餌係の長靴つつく鴨一羽(渡邉美保)
鴨鍋や娘の彼は左利き(藤田晋一)
発送は四百年前船乗りを北へ導く光が届く(須磨蛍)
酔ふ度に贈与税など気にするな遺すものなど無いと笑む父(小田虎賢)
大根の帰宅のドアに吊されて友の笑顔の残る玄関(小田慶喜)
泣き笑いしていた日々も愛おしく贈り物だね子育ての日々(松井幸子)
春一番吹いてお腹の声を聞く聖母の様な後ろ姿で(須山恵美)
母親は米とみかんを父親は本を一冊次男のための(近藤きつね)
モーロクの書斎はカフェちんちろりん(平きみえ)
相棒の右京の影が昼の虫(諸富千歳)
郷町に虫の故郷甦れ(藤田勇)
畦道に夫と休めば昼の虫(小松房子)
玉虫の母にぶつかる石舞台(堀ノ内和夫)
ほがらかにこおろぎが鳴く犀川よ(戸田なお)
蜻蛉の群れなす野辺に振りかへる君よりゆらと透ける少年(松城ゆき)
Tシャツの背中を虫が這うけれどわたしはわたしを助けられない(岡野はるみ)
コンビニの誘蛾灯へと近寄りし虫に緊急指令を発す(小田虎賢)
食べたことなきピクルスも淀みなくはらぺこあおむし読み上げる吾子(小野史)
虫の息弱さの比喩とはこれ如何に斯くも力の漲る者を(石山哲也)
琥珀中に閉ざさる虫の目となりてみつめておりぬ朝の日照雨を(瀬戸内光)
少年の頭の奥に積乱雲(衛藤夏子)
頭から飛び出すさまの心太(山口正夫)
野球帽揃って麦茶飲む木陰(松井幸子)
夏草や鹿のま白き頭蓋骨(屋部きよみ)
頭突の子裸の父は仁王立ち(前田春蘭)
最前列の頭上に降り来大花火(渡邉美保)
意にそわぬ姿さらせば(まっすぐな胡瓜のごとく)褒められはする(村田馨)
妻の夏野菜スープはやさしくて営業職の苦味ほどける(藤田晋一)
瑞瑞しき息あるきゅうりを吾が捥ぎて命頂戴仕るなり(熊ノ郷紀子)
手首癒へさくさくさくと嬉しさにさくさくさくと胡瓜を刻む(松田理)
花として咲くだけならばピーマンも許してあげてもいいんだけど(近藤きつね)
夏野菜たとえばトマト好きになりカレーに入れて恋おわらせて(衛藤夏子)
新聞紙テントウムシが歩いてる(かつらいす)
言いかけたことばが溶けるソーダ水(えんどうけいこ)
ひとことで言うとぞっこん若葉風(芳賀博子)
空豆にビールがあって大ずもう(正野ゆう子)
錦織は負けるしたけのこの欠伸(弘津彰子)
白薔薇と共犯になることば哉(SEIKO)
ヒトヨタケ一夜で消える菌類の胞子あなたのコトバにかける(山本純子)
手招きをするかのように鮮やかなきみの言葉に水底を蹴る(松井幸子)
雪の夜の祖父母の間よりこぼれくるどの睦言も摂津の訛り(澤井みのり)
羊の毛剪るやうにまた忘られてゆくことばたち地面を這いぬ(小田和子)
つぎつぎにサラダに降りてゆくチーズ紋白蝶が退化している(秋本こゆび)
マネキンのヌードの森に迷い込みノゾキ禁止のことばふりきる(秋山泰)
梅咲いて眉毛一本軽くなる(和田康)
梅一輪咲いて早速電話して(鳥越世史子)
本日は天丼日和梅咲いて(渡邉美保)
梅香る皮一枚の老木の(中川房子)
もう梅が咲いていますと追伸に(屋部きよみ)
泣かないと練習する子梅開く(諸星千綾)
ボストンと半泣き顔を連れていく「家出かよ」って笑う東京(森本成美)
旅立ちは見送れぬまままひるまの光を集めてゐる猫の皿(有村桔梗)
父は最後に大きく息を吸い込みて大地に潜()くごと旅立てり(藤田晋一)
旅立った冬鳥残す羽の帆を文書のように手のひらにとる(漕戸もり)
湿原のわたすげの玉の白き波花穂ふるえて旅立つを待つ(福島妙子)
居留守して旅立ちまえに絵描くわれを天窓に顔あり朝夢さめる(高橋裕)