月光の法被羽織りて太鼓打つ(小野 史)
しんと海しいんと二人しんと月(遠野 かなみ)
名月や即かず離れず老い二人(諸富 千歳)
十五夜の月道連れに夜行バス(伊賀 豊子)
月光に折鶴手から飛んでゆく(小松 房子)
頬杖の後期高齢窓の月(平 きみえ)
天気雨けふはきつねの大安かおひるのうどんにお揚げをのせる(松城 ゆき)
考えるちいさき葦との攻防に通せんぼしてキッチンのなか(渡辺 啓子)
雑誌より300円安い時給さ ザッザ、ザザザザきざむ玉ネギ(遠野 かなみ)
まな板を置くと危うい凪いだ夜もオクラの星が瞬きがちだ(堺 紀彦)
厨房にふたりの息子入れ料理楽しむことの食育記録(小田 和子)
獣の皮はぐが如くにはがしゆくあまたの竹の子転がるキッチン(瀬戸内 光)
兄の手に 返した蛍 あの蛍(諸富千歳)
弟とほたるを追って闇追って(平まなぶ)
子が叫ぶ母の頭に蛍きて(鳥越世史子)
橋の上チューしたりして初蛍(長谷川博)
雨の止み蛍を放つ草の闇(小田和子)
ほたるさん 彼の視線をとらないで(伊奈泰樹)
静寂ののちの疾走絶叫の一部となりて私も叫ぶ(小林礼歩)
歩みゆくほかは知るなきわたくしが空へ翔(か)けいむゴンドラに乗り(瀬戸内光)
楽々園遊園地駅へと至る原爆ドームからの廣島(小田慶喜)
東京を遊園地だと思ってるきみとはいつも手をつなぎたい(えんどうけいこ)
もう君に会えない行き場失くしたる年間パスに残った時間(野呂裕樹)
遊園地に半回転す空と地と記憶のピースは空飛ぶダンボ(知地一代)
甘くないチョコレイトよと渡される(堺紀彦)
カクテルをしやかしやかバレンタインの日(平きみえ)
100さいやバレンタインにミルクチョコ(春蘭)
マシュマロがいいわねバレンタインデー(諸冨千歳)
観覧車バレンタインの日の終はる(水野大雅)
バレンタインつかんで渡した君の手に(ゆきうさぎ)
追伸が長くなるのがわたしたち「書く」がことばを連れてくるのね(近藤千草)
取りためた古き手紙を読む時は我が裸木に連なる気がする(梅垣和良)
果ての無い宇宙にぽつり当ての無いボトルメールを運ぶボイジャー(須磨蛍)
鷹の字が三の二倍の大きさに書かれ三鷹市より手紙来る(松木秀)
由紀さおり歌ふ手紙の曲がふと口突いて出る深夜のソフアー(小田和子)
手が震え字書けぬメールも打てぬ歳音声認識私の手紙(つみき)
原子炉のやうな子を抱き十一月(小田龍聖)
古傷の疼く十一月の朝(小田虎賢)
十一月シニアに結ぶ赤い糸(春蘭)
十一月サーカス町にやってきた(屋部きよみ)
兄の家解体決まる十一月(知地一代)
離乳食十一月の献立表(渡辺啓子)
象のいびきZOOにひびきて精霊の野生浸みゆくまほらの闇に(藤田晋一)
囚われた動物園の檻からは人間といふ動物見える(高山葉月)
史実にはないが優しい牢名主いたかもしれぬ象園の午後(堺紀彦)
キリンの糞くさいくさいと園児らの声閉じ込めた秋の印画紙(小林礼歩)
パンダでも太いしっぽで立ち上がるレッサーパンダの立ち位置はどこ(河野多香子)
鳩のことばかり話して甥っ子は動物園は楽しいと言う(近藤きつね)
芋虫と金剛力士の筋肉(SEIKO)
芋虫ののそりのそりと雲流る(山田信子)
芋虫が可能性へと突き進む(近藤千草)
芋虫の背中に乗って九九唱え(内橋可奈子)
芋虫やうまれかわつて貝になる(春蘭)
青空へまるまる登る芋虫よ(平学)
一ページ繰るごとに湧くときめきを波の如くに絵は与えけり(嶺里翠)
時時は童話の中の恐い母時には絵本読み呉れしも母(諸富千歳)
身の丈に合わない煌びやかな城飛び出す絵本老人ホーム(堺紀彦)
戻っても繰り返してもいいんだよぼくは絵本に受け止められた(近藤千草)
通学路赤ずきんちゃん気をつけて人の形のロボットがいる(知地一代)
ゼロ歳の慣らし保育に持っていくふとんにアプリケいないいないばあ(渡辺啓子)