友達になろう日暮れの蟇(山田信子)
こつちから先は奈落と蟇(堺紀彦)
蟇の声介護施設に母を訪う(しゅんらん)
蟇かこみ掴みたき子や五六人(直雅)
ひきがえるまだ平成の土の中(渡辺啓子)
蟇いつも仲好し小好しなの(諸富千歳)
黒鶏と林牧場の豚もいる神戸牛だけいないレシート(知地一代)
淡淡とたんと押したる実印が今さら赤い家を買う日に(須磨蛍)
若き日に挑みし歌集買い直すなんど読めども塚本邦雄(藤田晋一)
凋落のシンボルマークとされる町日曜日にはバザールがある(堺紀彦)
夕焼けに背中押されるようにしてサンダル履きて行く商店街(海実)
目的がある時だけが買い物か何気に巡る其れも乙なり(家内守)
伊丹公論復刊第20号(通巻39号) (PDFファイル: 2.9MB)
春めくやパッチワークの鳥・鳥・鳥(戸川冨士子)
商店街歩けばラララ春ですね(屋部きよみ)
水色の産衣ぬいおり古稀の春(渡辺啓子)
潮の香の窓に頬杖春浅し(平きみえ)
乳液のかがやく白さ春隣(小松房子)
路線図を右手に丸め春の旅(和田康)
街角に距離感のない音のしてバグパイプから溢れ出しおり(須磨蛍)
春風が笑顔で街を訪れる楽器のように花芽揺らして(海実)
金管で火喰鳥の声を真似てもう少し森の中にいよう(堺紀彦)
マウンドの君に届けと息を吐くトランペットの銃口を向け(近藤きつね)
吹き口に息を入れればいいだけよ妻が謀(たばか)る手ごわきオカリナ(和田康)
彼方此方に置いてあるもの奏でればどんなモノでも演奏できぬ(家内守)
こんな日は焼芋買うて文庫本(屋部きよみ)
焼芋をほこほこ抱いて帰る父(平きみえ)
焼芋の匂を乗せて走るバス(諸富千歳)
焼芋やじゃんけんぽんで分け合って(小松房子)
ごつごつの祖父の焼き芋転がす手(小田龍聖)
独り身の夕餉、焼き芋、ミルクティー(えんどうけいこ)
降る花の樹液の精の深々とわれにしみいる夙川公園(藤田晋一)
公園に行こうと君が誘うとき心をそっと準備しておく(えんどうけいこ)
明け暗れの公園砂漠に漂着し群れなす鴉何ぞ哭きたてる(岡田良子)
公園の芝生のみどり父さんが真ん中にいる最後の写真(渡辺啓子)
妻の手を借りて術後の公園をゆっくり歩むまだ生きている(小田慶喜)
子どもらが「よつば」を探す日曜日残念そうに見せる「さんつば」(加倉井愛)
手紙書く金魚が小石つつく音(屋部きよみ)
進化して啼かなくなった金魚たち(近藤千草)
一斉に千の金魚が逃げるなり(渡辺啓子)
海苔瓶に金魚の住まふ安下宿(小田龍聖)
どことなくヴィヴィアン・リーの金魚かな(和田康)
見つめあいぷいと振られる蘭鋳に(戸川冨士子)
恋愛にならない人とコンビニで花火を買って夏をごまかす(えんどうけいこ)
淀川の花火大会邪魔をするビルをつまんで移動させたし(高山葉月)
真夜中にとなりにゐても繋がないあなたの手から花火の匂ひ(有村桔梗)
咲き競ふ花火は美妙の彩みせて夜空いっぱいをキャンバスとなす(岡田良子)
冬のインドの結婚式は盛大な花火打上げ始まりぬ(森田稔子)
夜勤中窓から緑地公園のわずかに光る輪郭を見る(堺紀彦)
伊丹俳壇「青田」
公民館のチアーダンスや青田風(小松房子)
中学生なったばかりの青田かな(横溝麻志穂)
八十路なる兄の鋤たる青田なり(黒田智子)
ふるさとや青田のほうへ向く生家(戸川冨士子)
ペダル漕ぐ制服揺らす青田風(松井幸子)
ただ風に従つてゐる青田かな(えんどうけいこ)
震災後味を気にせず食べたパン腹を満たせぬ避難所の夜(横溝麻志穂)
脳内に「ボレロ」を循環させながらパン教室で生地をこねてる(小林礼歩)
紀伊國屋書店もパン屋四軒も未だ健在小さきわが街(山本伸子)
雨の日は雨の香りを閉じ込めてクロワッサンは膨らんでいく(近藤きつね)
少しだけきみ思い出すジャム付きのまあるいパンのやわらかさから(六月さかな)
パンドラの箱を開けたり真夜中のレスポワールが冷蔵庫に居り(須磨蛍)